LOVE☆合コン
初日
〜驚天絶後の燕返し〜
彼は汗みどろだった。
深夜12時発のバスで向かうはずの名古屋旅行を、小生の怠惰により前日最終新幹線以外方法がなくなってしまい、仕事終了から新幹線乗車まで30分弱という常人なら諦める制約の下、タバコで真っ黒になった肺を酷使しつつ被害者Tは疾駆して来た。

「今日はどうする?」
登場と同時に発したTのこの言葉が、小生のハートに火を付けた。
これには少し解説が必要かもしれない。
普通の人間の場合とTの場合の、2パターンに分けて比較検討して説明させてもらおう。

『普通の人間の場合』
「いやー、走った走った。お疲れ!明日は万博で本当に疲れるだろうし、名古屋に着いたらスグ寝て明日に備えよーぜ。」
こんなところだろうか。
それはそうだろう。
旅費だけで片道福沢諭吉一人を使うのだから、メインイベントに思う存分自分の体力、知力全てを注ぎ込もうというその感情は、極めて自然で正しいということに異論はないであろう。

『アッパラパーTの場合』
「いやー、俺汗くせーよ。とりあえず帰ったら着替えて、それからだな、繰り出すのは!」
は?。。。
一つの展示物を見学するのに下手したら3時間待ちというある意味体力最重視のイベントを控え、前日深夜に一体全体どこに繰り出そうというのか?
しかしTの顔はなぜか照り輝いている。
これを汗のせいだと思うのは早計だろう。
そう、ドラゴンボールで例えるなら魔人ブウに対峙するスーパーサイヤ人のように、あるいはスラムダンクで例えるなら海南戦を控えた赤木キャプテンのようなオーラを彼は爛々と発しているではないか。

(初日から半端じゃ収まらねぇ。こいつはイク気だ。その時間から繰り出すってことは、@クラブでナンパか、Aキャバクラで全力のアフター狙いか、あるいはB初日から全精力を名古屋にぶちまける気か。。。)
Tの、まるで初めての修学旅行の風呂場で男としての自信を確固たるものにした直後のような活き活きとした目を見た瞬間、小生の頭は完全に3択に絞られざるを得なかった。
そう、小生の愛・地球博は、名古屋に到着する前どころか、出発する前に静かに、そして1%の可能性すら残さずに幕を下ろしたのだった。。。

覚悟したからには、小生も負けてはいられない。
Tとのファーストコンタクトからわずか3秒、頭はクールに、ハートは燃えたぎっている絶望戦士と化した2人組は、最終の新幹線であらゆるシミュレーションをし、全パターンにおいてミーティングを重ねた。
前後左右で疲れきったサラリーマンが眠りこけている中で、一滴の酒も入れずに大声でミーティングした。
隣のリーマンが明らかに切れていても、我々のCPUは唸りを上げ続け、横隔膜は震えっぱなしだった。

そして我々が出した答えは、AキャバクラへGo → アフターに持ち込み、名古屋の友人の家でジーコジャパンゲーム。
ジーコジャパンゲーム − それは場の盛り上げをゲームに頼るのは実力の無い証拠と信じきり、どのような状況下でも己の舌一枚で切り盛りしてゴールを挙げるんだという信念を持っている小生が、唯一その存在を認めむしろ積極的に采配を振るいたいと思ってしまう、平たくぶっちゃてしまうとただの王様ゲーム − 。
新幹線の間は、久しぶりの再開にも関わらず実に2時間ほぼこの話題に終始し、気分は完全に日本代表として名古屋に上陸。
駅に降り立った瞬間、ホームで君が代を斉唱してしまったのは、二日酔いの日に蕎麦にいつもより多めに七味唐辛子を入れてしまうのと同じくらい無理のない流れであろう。

時計の針は深夜12時を半周程オーバーしていただろうか。
下町の高田純次という異名を欲しいままにした、名古屋へ左遷された友人との再開。
「名古屋は栄ってゆー町が、東京で言う新宿と渋谷と銀座と六本木と池袋を併せたような町で、逆に言うとそこしかない。でも、俺が今日行きたいのはそこじゃない。」
この実質的な第一声を耳にした瞬間、絶望戦士が3人に増殖したことを確信した。
何が逆かもわからぬまま、タクシーへ乗り込む。

過去を振り返り、懐かしみ、美化してひたすらに語るは成長の止まった証。
そんな俗諺を知ってか知らでか、タクシーでの話題はどこの店に行くか、どうアフターに持ち込むか、持ち込んだら酒屋はここにあるから大丈夫といった類の、
ひたすらに妄想という名の未来日記を描き続けた3馬鹿トリオ。
数ヶ月ぶりに再会した友としての会話は何一つないまま、完全にシラフでの値段交渉〜入店。

各人のスキル上達っぷりは、本当にコイツを敵に回さないで良かった、と思える瞬間の波状攻撃だった。

TはTで、自分が相手されないと持ち前の可愛さで膨れっ面→母性本能をくすぐる大作戦発動。
(あら、この子ったら私がいなきゃダメだわ。
全くもう、行きの新幹線でテンション上がり過ぎて財布を忘れてるのに気づかずにホームで国家斉唱してたなんて、こんなダメっ子東スポに投稿してやろうかしら。
名古屋名物も名古屋嬢の味も、全部私が手取り足取り教えてあげなくちゃ。
ほんと手のかかる子。可愛いし、それでいて何だか可愛そうだわ。あら、ジーンズも破れてる、暑いのはわかるけど、熱くなり過ぎ!)
キャバクラにしては明るすぎる店内で、こんなキャバ嬢の心理が手に取るように明るみに出ていた。
Tのスキルは、小生の到底及ぶところではない。

純次は純次で、相も変わらず天才的な軽さを発揮していた。
東京出身者が2年そこそこいただけで、まるで名古屋の全てを知り尽くし、味も文化も風俗も知っている、戦前からの生き証人のような語り口。
そして相手に思考時間を与えぬよう、名古屋にて身に付けた、名古屋嬢のハートをくすぐるポイントを捲くし立てる。
・まだ手元に届いていない中古の、下心丸出しのベンツ2人乗りオープンカーで家まで送るよ
・聞いたことも無いフランス産のコーヒーを、あたかもセリエAで中田も中村も毎日飲んでいるとも言いたげな口調で、丁度今自分の家に入荷したから飲みに来てよ
しつこいくらいに強調し、そして強調する度に感心し、見る間に引き込まれていくお嬢ちゃん達。
純次のスキルは、真似したら人として底辺になってしまう気がしてとても出来たものじゃない。

こんなスキルフルな面子の中、小生も負けじと右に左に獅子奮迅の働きを試みる。
しかし神は小生に微笑まなかった。
小生の敵を完膚なきまでに笑わせ、満足させてやったものと勝手に自己満に浸りイケルと確信していたところ、アフターに先約があるとのこと。
その無念さに握ったコブシから2L程流血させつつ、お約束の電話番号だけ聞き制限時間という壁を乗り超えられず退散。

俺達の青春第一章は終わった。。。

少なくとも純次と小生は諦め、店を出た。
あと2秒でため息をつくというその瞬間、Tが何かを喚き散らしながら小走りで店を出てくる。
「お前ら出るの早えーよ!」

会計席に最も遠い席に陣取っていたTが、散々会計コールを無視して限界まで粘っていた純次の涙ぐましい努力を微塵も気づかずに発したこの言葉が、逆に我々のやる気を引き出す。
Tがほざくに、敵はアフターやる気満々で、あと10秒あれば番号聞けてアフター出来たのに、と完全に後の祭り・負け犬の遠吠えとしか思えないトーンで寝静まった名古屋の街に騒音をデリバリーしている。
じゃあもっと早く言えよ、清算時に気づけよ、どうするよ、ふざけんなよ、こっちは遊びじゃねーんだよ、てめーのケツはてめーでふけよ、と阿鼻叫喚タイムが訪れ、疲れ、途方にくれること幾数分。
自分の心の声か、あるいは誰かがぶっこいているのか、小生にはわからない。
「もう一回、お店入ろうか。」
こんな声が、内外でこだまする。
閉店まで30分を切らんとするその時間帯、普通に延長すりゃいいのに延長せず、一回出て立ち小便後出戻る。
あまりに格好悪く、コスト面でも不利で、何より多少酔っていても何となく本当に恥ずかしい。
そんな過酷な状況下でも、アフターでジーコのように采配を振るいたい、という熱い思いが足を、ハートを店へと運ぶ。
店への交差点を面舵いっぱいに切るのは言うまでもなく各々の息子−換言するならアフターを信じる各人の断固たる決意−である。

そして言う。
「すいません、馬鹿息子で。ママ、もう一回お願いします。」
ママ苦笑。
お嬢ちゃん達は驚きつつ若干冷笑。
そして出戻った僕等は自分達に大爆笑。

これこそ驚天絶後のキャバクラ燕返しである。

ただ、ウルトラEをかまし決まったと思っていたのはメンズだけで、グダグダだった我々は結局ふつーに家路に着いたのであった。

こうして絶望トリオは、名古屋初日の、初日にしてはあまりにもドラマティックな夜を終えた。

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